平井伸治委員「台風7号災害から考える」(令和5年10月13日)

関西広域連合 平井伸治委員(鳥取県知事)からのメッセージ

「台風7号災害から考える」

 

 

  お盆の最中、台風7号が関西広域連合の構成地域をゆっくりと進み、列島各地に甚大な被害をもたらしました。台風被災地に対しまして、全国から厚いご支援や励ましをいただきましたことに、心から感謝申し上げます。

 

  この度の台風7号は、8月15日午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸し、和歌山県を縦断するように進み、大阪湾を経て再び午後1時頃兵庫県明石市付近で本州に上陸。兵庫県を南から北へ進み、夜7時過ぎに兵庫県香美町から日本海へと抜けていきました。兵庫県では矢田川が氾濫するなど香美町、豊岡市、養父市等が被災し、京都府でも土砂崩れや浸水で舞鶴市、綾部市、福知山市等で被害が発生したほか、鳥取県に境を接する岡山県鏡野町なども猛威に見舞われました。
  今回の被害は一つのゾーンを成して京都府北部から鳥取・岡山県境の中国山地にかけて集中しており、15日午後4時40分に大雨特別警報が発令された鳥取県が最大の被害を受けました。特に鳥取市、八頭町、三朝町などで、記録的豪雨を集めた激流により洗掘されたり、流されてきた大きな岩等がぶつかったりなどして、河川護岸の崩壊が各地で頻発した上、川沿いの道路や電線・上下水道管等も巻き込み、道路の途絶やライフライン切断に至りました。併せて大雨は鳥取県各地で土砂災害も惹起し、こうした被災個所は3千箇所を超え、農林道や農業用水施設の損壊、土砂の堆積や流出による農地被害なども含めて、公共土木施設、農林水産関係等の被害総額は316億円に上りました。
  一方で、長年にわたる治水対策や近年の国土強靭化政策の成果に加え、地元自治体と地域住民が連携した避難などの効果もあり、幸いにして、河川の決壊や氾濫については抑制されるとともに、人的被害や住家被害は最小限度にとどまりました。山腹で土砂崩れなどが続発する厳しい状況でありながら、水の流れはほぼ河川区域内にとどめることができた一方で、記録的豪雨で荒れ狂う激流により落橋や河道損傷が頻発し、道路が寸断され、一時は28集落、1820人もの孤立という危機に追い込まれることとなりました。
  鳥取市にある佐治川ダムでは、計画規模の倍以上となる観測史上最多の降水によって、昭和47年の運用開始以来初めて緊急放流を実施する事態となりました。15日朝9時頃、「10時緊急放流(流入=放流)開始」の検討が担当から告げられ、その場合、佐治川下流での溢水も懸念されること、関係機関へは情報提供していることの報告を受けました。しかし、他県では西日本豪雨災害時の緊急放流により人命に関わる事態になったこともあり、一旦手続きを止めて鳥取市などとよく調整し、住民避難が行き渡ったことを確認した上で行うように、担当部局に強く申し渡しました。マニュアルどおりだからと言っても、人命が失われる事態は避けなければいけません。その後、現地にリエゾンを派遣したり住民避難を徹底したりするなど万策を尽くした上で、爆破され決壊したウクライナのダムのような惨事を避けるべく、洪水調節容量を超過した状況からやむを得ず、大雨特別警報発令以降約3時間に限り緊急放流を実施することとなりました。結果として、人命にかかわる事態を避けることが叶い、流域の住民の皆様や鳥取市に感謝申し上げます。こうした緊張感あふれる修羅場が、時を追って次々と続きました。
  特に、命と生活を守るため、孤立集落解消と住民救出は最優先課題でした。お年寄りばかり5名が孤立した集落へ県防災ヘリが救出に向かうも、悪天候に阻まれ帰還。翌17日再度飛び、雲が飛行高度より高みにとどまった隙をついて全員救出。国土交通省の照明車を提供いただき、昼夜を分かたぬ応急復旧工事を進め、18日には全ての孤立を解消することができました。
  十分な予算措置こそ迅速な対策の前提です。台風襲来の15日夜から県議会の要路と調整を始め、18日に県議会代表者会議で説明し、緊急補正予算を専決した上、9月県会に本格的な復旧に向け追加予算を提出し、災害対策予算額は、鳥取県西部地震を上回る過去最大の367億円となりました。台風当日から関係閣僚と意を通じ合い、激甚災害指定も10月6日の閣議で決まり、早期に実現しました。
  鳥取県は人口最少でスケール・メリットは乏しいですが、連日首長はじめ関係者と連絡を取り、逆に小回りを活かした機動力で迅速に災害対策を展開できる「スモール・メリット」があると考えています。

 

  「24時間最大雨量250mm」。15日明け方の予報です。「中国地方」としてくくられて全国放送されていました。しかし、実際には線状降水帯や記録的短時間大雨情報が相次ぎ、ゆっくりと台風が近づくにつれ雨脚は強まるばかり。県の観測では、連続雨量が鳥取市佐治で627mm、三朝町中津で611mm。また、よく言われるのは「台風の進路の右側は危ない」という通説で、報道機関もこれを繰り返し流しましたが、鳥取県は常に台風の進路の左でした。台風7号は大阪湾近辺で985hPaとなり、日本海へ抜ける頃には990hPa。決して強い台風ではなく、強風域も半径280kmと比較的コンパクト。しかし、山陰や北近畿では甚大な被害が起きました。遠く離れた岩手県でも、14日朝にかけて上空の寒気や暖かく湿った空気の影響で、1日500mm降りました。一体何が起こっているのでしょうか。
  実は、鳥取県など山陰では「台風の進路の左側も危ない」のです。これまでも昭和36年の第二室戸台風は室戸岬西から若狭湾方面へ抜けて行き、進路の左側の本県で死者3名、全壊流出100棟に及ぶ甚大な災害となりました。昭和34年の伊勢湾台風や昭和62年台風19号なども、同様のコースで山陰に大きな被害をもたらしています。台風7号の進路こそ、鳥取県にとっては警戒すべきコースでした。更に「アウターバンド」(台風外側の帯状の降雨帯)は、京都府北部から兵庫、鳥取、岡山に15日未明から朝に線状降水帯をもたらしました。加えて、台風の速度が15km/hと遅く、台風に回り込む日本海からの風で雨雲の供給が長く続いた上、台風本体の雨雲も襲来し、悪条件が重なる状況となりました。
  台風の最接近を前に、15日午後1時45分の県災害対策本部で、私からは、今回は危険な台風で「最近になく非常に厳しい状況も予測される」として、「ぜひ県民、関係機関は、十分に情報を共有しながら、避難を早めにする、命を守る、適切な災害対応をしていく」よう声高に呼び掛けました。正直なところ、当時の気象台や報道の表現よりも相当踏み込んで呼び掛けるのは勇気の要ることでした。「現場の直感」と言えばそうかもしれませんが、20年以上鳥取の災害対策を経験してきた者として、非常に切迫した状況だと伝える責任を感じていました。果たせるかな、その3時間後に気象庁は大雨特別警報を鳥取市に発令するに至り、一夜明けて甚大な被害も見えてきました。
  実は当時の日本海の海面水温は27℃以上で平年より5℃くらい高くなっており、北からの風で運ばれる水蒸気は山にぶつかり雨雲を発達させます。テレビもネットも、台風がどこを通り、いつ上陸するかばかり注目しますが、災害を起こすのは台風の目ではなく、台風の影響で惹起される風と雨雲です。台風本体の雨雲はもちろん、アウターバンドや今回の岩手のような現象も危険です。強風や竜巻にも注目しなければなりません。全国的気象予報システムのレベルが上がる一方で、現場の判断や地域特有の状況が伝わりにくくなるのか、世の中の見方も全国報道もバイアスがかかりがちで、緊急事態で命と生活を守る情報発信や情勢判断としては不十分な場合もあるのではないでしょうか。最近の台風でも、鳥取県で深刻な被害を生じ、県民に避難等を真剣に呼び掛けるべき緊迫した中、放送局が各県毎ではなくブロック放送に切り替えた関係で、本県の被害よりもアプリの説明を繰り返す台風報道があり、さすがに私も放送局に苦言を申し上げたこともありました。
  また、突き詰めていけば、海上等での水蒸気の量と、それを供給し雨雲を起こす台風や前線等の動きの掛け合わせで、最近の災害の激甚化が様々な形で現れていると思われます。研究者や気象台などはデータや分析が揃わないと断言しにくいのかもしれませんが、残念ながら私たちはそういう前提に立って行動しなければなりません。本来、エルニーニョ現象で今年は台風が減少するはずなのに、国際連合のグテーレス事務総長が言う「地球沸騰化」で海面温度が高くなったからでしょうか、この夏は次々と台風の卵が太平洋で生み出されました。国の激甚災害の認定は個別の台風や前線活動ごとに基準を当てはめますが、台風も集中豪雨等も日本周辺の大量の水蒸気の存在など同じメカニズムから生じており、今の災害対策の仕組みが実情に合っているか、政府は検証すべき時代がきたのではないでしょうか。

 

  台風7号は丁度お盆休みに襲来したので、鳥取県の被災状況はニュースで丁寧に取り上げられ、三朝温泉の名所である河原風呂が流された映像が全国放送されました。このため、三徳川があふれることはなく、多くの旅館が無事だった上、一部被災した宿も速やかに復旧したのですが、キャンセルが殺到し予約が入らない風評被害の様相を呈しました。そこで、最近の流行語に乗っかって、「安心してください!温泉はいれますよ!」というキャッチフレーズをひねり出してキャンペーンを始めました。でも気掛かりだったのは、もちネタにしている「とにかく明るい安村」さんがどうおっしゃるか…。
  9月8日に安村さんが三朝温泉にお越しになり、報道陣を前にして、私に「勝手に使わないでくださいよ。」と目を吊り上げたので、「申し訳ありません。みんな頑張っておりますので、お許しいただければ・・・」と即座に謝罪。安村さんは「知事。安心してください!応援してますよ!」と笑顔を見せ、あっさり和解。早速、鳥取県「温泉はいれますよ!」アンバサダーにご就任いただきました。
  鳥取県は食材の宝庫です。そんな「食パラダイスとっとり」として、ベニズワイガニ漁の始まる9月から「蟹取県ウェルカニキャンペーン」を展開しています。鳥取砂丘でドラマのシーンを再現する「VIVANTごっこ」も楽しめますので、被災を乗り越えようと頑張っている当地へ応援においでください。
  安心してください!おいしいカニ、入ってますよ!

 

 

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