仁坂吉伸広域連合長「予想外のことが、しかし大事なことを忘れずに」(令和3年4月8日)

関西広域連合 仁坂吉伸広域連合長(和歌山県知事)からのメッセージ

 

「予想外のことが、しかし大事なことを忘れずに」

 

  新型コロナウィルス感染症は中々しぶとく、3月21日首都圏で緊急事態宣言が解除されたと思ったら、すぐさま、宮城県で感染が急拡大し、大阪や兵庫でもみるみるうちに第三波のピークぐらいの数の感染者が出るようになりました。そこで大阪府等の知事の要請を受けて、政府は4月1日「まん延防止等重点措置(まん防)」の対象地域として宮城県、大阪府、兵庫県の府県を指定するに至りました。和歌山県も、3月上旬ぐらいまでは新規感染者がゼロの日も結構あり、全員入院体制を堅持している病床占有数も6つに減るなど収束の兆しを示していましたが、3月中旬から急拡大して、このところ新規感染者数は和歌山県としては大変な数となり、全員入院の方針を堅持していますから、コロナ病床数もどんどん埋まって、少々先行きピンチになっています。こうなると、入院先の病院の関係者も大変ですし、陽性者の行動履歴を聞いて、濃厚接触者等の検査に赴き、発見した陽性者の入院調整や、陰性にはなったものの経過観察を要する方々のケアなど、多くの仕事を必死でこなしている保健所等保健医療行政に携わる職員の苦労は並大抵ではありません。

  和歌山県では昨年春の第1回の緊急事態宣言が解除されてからは、熟慮の上、感染の拡大防止には保健医療行政で立ち向かい、生活や経済を守るためには県民生活への制限は出来るだけ少なくするという方針でやってきました。もちろんその上で県民には守っていただいたほうが安全と考える最低限のお願いをしてきましたが、県民に一般的な不要不急の外出自粛をお願いもしていませんし、飲食店の時短要請もしたことがありませんし、東京や京阪神の方々が和歌山にお越しになられることも何の制約も課しておりません。そうすれば、多少はウィルスを持ち込まれる可能性もあり、感染する人も出る可能性もありますが、その時は保健医療行政の出動で拡大を防止するからという方針でやってきました。何度か危ないかなと思う時期もありましたが、何とか凌いでまいりました。何故そういうことで頑張ってきたかというと、我々はコロナの感染防止だけやればよいというわけではなく、住民の生活も経済も守らなければならない。それならば、感染防止は保健医療行政という政策手段で行って、生活や経済の再生のために、県民の生活の制約は最小限にしようという政策をとろうという政策割当を考えたからです。つい最近亡くなったノーベル経済学賞受賞者ティンバーゲン氏の唱えた方法です。
  また、近隣の大阪、兵庫をはじめ関西の各府県も、それぞれ情勢に応じて必要な時短などは行いつつ、保健医療行政も頑張り、その点、どうかと思われる首都圏に比べると、かなり感染抑制に成果を上げてきました。関西広域連合でも常に各府県市の経験の情報交換を行って、全員で頑張ってきたところです。この上は、首都圏においても、感染が少し下火になった時期を捉えて、保健医療行政のたがを締め直し、特に良い成果を挙げている地方県のやり方を参考に、その改良に取り組んでもらいたいし、そうしなければ、また感染が拡大、爆発するぞという警句を私は盛んに発していました。

  ところが3月中旬以降、まったく予想外のことに、よりうまく行っていた関西で首都圏以上に感染が急拡大し、和歌山県や、最優等生の鳥取県や徳島県でもかなり多くの感染が出るに至っており、私もいささか面食らっているところです。

  何が起こっているのでしょう。和歌山県に関しては、発症例全件を詳細に分析していますので状況はよく分かります。はじめは最低限のお願いとしてきたことに反して県外へわざわざ出かけての飲酒等で持ち込まれたもので再拡大が始まっているのですが、最初の持ち込み者から感染するスピードと拡がりが以前よりもずっと大きいという特色があります。和歌山県では今や全数変異株スクリーニング検査を自前で行っていますので分かりますが、諸外国で発生して日本に持ち込まれた変異株が急拡大しているというのが、関西の拡大急拡大の理由だと思います。

  大阪や奈良、和歌山などでは、このところ感染者が非常に増えて過去最多を更新していまして、各県の保健医療当局の労苦もひとかたならぬものがあるし、医療関係者の疲労も甚だしいものであると思います。この勢いで感染者が増加すれば、用意していた病床がパンクするおそれが真近のものとなっています。大阪で「医療非常事態宣言」が吉村知事によってなされたのも、よく理解できるところです。こういう時期になると、私がこれまで唱えていたようなコロナ拡大防止は保健医療行政の頑張りでという図式だけでは難しくなってきます。一般の住民の方々も、それぞれの府県市のトップの出される行動の自粛のお願いを聞いて、社会全体の感染圧力を下げていかないと保健医療行政だけでは頑張りきれません。あまり制限をしてこなかった和歌山県も「歓送迎会・謝恩会・宴会を伴う花見等を極力控える」に次いで、4月7日「家族以外とのカラオケを控える」というお願いを発することにしました。カラオケで感染が拡がっている例が増えてきたからです。変異株の猛威の前に、行政も住民もそれぞれの持ち場で協力し、力を合わせて頑張らなければならないということだと思います。
  関西だけではありません。これからは日本中がこの新たな脅威、変異株との闘いになるでしょう。私の見通しは変異株のために予想外のことが起こって少々外れましたが、それでも、次の3つが大事だということは依然として確実だと思います。
 

1.  保健医療行政が逼迫して大変だということは明らかとしても、保健医療行政がコロナの封じ込めのための基本ラインを放棄したら、感染はそれ以降とめどもなく拡がるので、何とか行政トップの知恵と力で、他の力や資源も入れながら頑張ってほしいと思います。
こういう感染拡大期は、保健医療行政が多忙すぎて悲鳴を上げます。一時は東京や神奈川がそれに対応して保健所の行う積極的疫学調査を手抜きをしてよいとする専門家の意見に乗ってしまったため、感染が抑え込めなくなりました。ここが突破されたら感染を抑え込む力がなくなり、ちょっとやそっとの自粛や住民の協力では感染がとめどなく拡がるというのが、論理的帰結だということは、感染症という病気の性格上明らかだし、ヨーロッパやアメリカの動向を見ていると分かるはずです。ヨーロッパやアメリカには感染症法による保健医療行政も保健所も元々ないので当然としても、それのある日本で、肝心のこの分野の専門家がこの構造を理解せず、保健所の機能や積極的疫学調査の意義を忘れているように思えるのは、驚くべきことだと思います。日本の危機の原因をあげれば、ここにあると思います。


2.  厚労省の変異株の入院患者の退院基準が、非変異株の場合より著しく厳しくなっているので、このままではあっという間に病院の病床がパンクしてしまいます。そこで厚労省は大至急変異株の感染者の感染力に関する知見を集め、それに基づいて一刻も早く退院基準を改めてほしいと思います。退院基準のための知見につき、100%を求める慎重さも大事ですが、今は危急存亡の時なので勇気をもって早く決定を下してほしいと思います。


3.  ワクチンの接種が一刻も早くでき、かつ終了することが出来るよう、政府においても、その確保に全力を挙げて欲しいと思います。オリンピックも控え、変異株の脅威に最終的に対抗できるのはワクチンしかありません。その意味で、当初十分なワクチンを確保してあると言っていたのに、実はその契約もしていなかった厚生労働省は万死に値すると思います。


  以上を望みつつ、各県で職員を指導しながら、時として府県民の皆さんに語りかけながら頑張っている関西広域連合の各府県市の首長がスクラムを組んで、コロナと戦っていきたいと思います。

 

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